イクイノックスを語るために。
イクイノックスが引退した今、稀代の名馬であるという評価に異を唱える人はそう多くないと思う。
近いうちに顕彰馬に選出されることは間違いないだろう。
生涯戦績10戦8勝2着2回
主な勝ち鞍:2022年 天皇賞・秋 有馬記念 2着(皐月賞 日本ダービー)
2023年 ドバイシーマクラシック 宝塚記念 天皇賞・秋 ジャパンカップ
20年以上競馬を見てきたが、イクイノックスの様な馬は見た事がなかった。
少し、自分の競馬歴を紹介させてほしい。
ダビスタ3をいとこから借りたのが競馬との出会いだった。
すぐに血統書を読み漁る小学生となり、競馬に興味を持った96年、伝説のマッチレースとなった阪神大賞典があり、のめりこみ、翌年、父に懇願して連れて行ってもらった中山競馬場で初めて見たG1がグラスワンダーの朝日杯3歳ステークスだった。
そこからはウマ娘に触れてきた方にはご存じ97年に大活躍したサイレンススズカ、98年の最強ライバル世代をリアルタイムで観戦できたことは小さな自慢だ。
幼いころに見たナリタブライアンは晩年の姿しかほぼ記憶にないが、阪神大賞典だけで未だに自分の中では一番好きな馬だ。
グラスワンダーの朝日杯を生で見たのだ。マルゼンスキーのレコードを更新する瞬間を生で見たのだ。
親に許しをもらってエルコンドルパサーの凱旋門賞もリアルタイムでTV観戦した。
ただし馬券はほぼ買うことなく、血統とレース観戦を愛するスタイルのライトな競馬ファンだった。
ウマ娘を機に馬券にものめりこむという謎のスイッチでリアル競馬に再度熱が入ったタイプなので予想は素人。
話は少しそれたが何を言いたいかというとそれなりに長い間、名馬は見てきたのだ。
20年以上競馬を見てきたが、イクイノックスの様な馬は見た事がなかった。
天才の片鱗
まずは数字で語ろう。
21年 イクイノックスの勝った、東京スポーツ杯2歳S
12.8-11.4-12.0-12.4-11.7-11.6-11.0-11.9-11.4 後半5F 57.6秒 後半4F 45.9秒 上がり3F 34.3秒
2歳馬の才能を見分ける際の指標として非常に役立つのがラップタイムの後半数値だ。
特に東京で後半5Fを57秒代、後半4Fを45秒代。これは一部の名馬にしか到達できない数値で2歳時にこの数値を出した馬は1980年まで遡っても延べ12頭で、ほぼ重賞戦線で活躍している。
有名どころだとイクイノックスのほかにはコントレイルやグランアレグリア、サリオス、そしてこれからを期待されているボンドガール、チェルビニア、ダノンエアズロックなどが該当する。
この時点で才能の高さを伺わせるものはあるが、まだ片鱗だ。
この片鱗が自分の中で化物に変わったのが皐月賞のイクイノックスで、有馬記念前に10年に1頭の名馬レベル、ドバイで「今まで見た事がない化け物」になった。
天才かも、から即化物評価になった皐月賞
負けたレースでなぜ自分の中でこうも評価が爆上がりしたのか。
簡単に言うと色々と不利な条件が重なった中でこれだけのパフォーマンスを発揮したことに驚愕した。
中5か月というローテーション、初の右回り、初の荒れ馬場、初の小回り、大外枠、スローペースしか経験がないこと(皐月賞は締まったペースになりやすくスローしか経験のない馬が今まで数多く崩れてきた)、道中は前に壁を作れず足が貯まらない中、勝ったジオグリフはイクイノックスの後ろでじっくり足を貯められたという展開のあや、これだけあって坂上まで先頭だったのだ。
流石に最後、右に大きくよれて馬場の悪いところを走ることになってしまった分、突き放されたが、これがキャリア2戦の馬ができる走りなのかと、体が出来上がってないのに才能だけであらゆる不利をこなしたこの馬に当時の自分はこんな評価を下している。
イクイノックス
皐月賞を見て分かったことは、この馬は化物ということです。
東スポ2歳Sから直行は、不安でしたが、約5か月というのはエフフォーリアがダービーの後、天皇賞秋に直行した時と同じくらいの間隔です。ノーザンF天栄にはノウハウがあったのだと思います。
勿論、レース経験の無さは道中で出てしまったかとは思います。
馬が「これくらいのペースで走ればいいんでしょ?ボク覚えてるよ!」って感じで1800mのつもりで走ってましたね。
スタート直後はジオグリフの後ろくらいですが道中で完全にジオグリフの前に居ました。
折り合えなかったというより5か月も前の競馬を覚えていた、むしろ頭のよさの表れな気がします。
道中は前に馬を置くことができなく、ルメール騎手も馬と喧嘩するよりはと思ったのか、かなり前目の位置から上がっていき、最後はジオグリフに差されてしまいました。
逆にジオグリフの福永騎手は道中イクイノックスを壁にして馬を落ち着かせることができ、イクイノックスの手ごたえを見ながら仕掛けのタイミングを計れたので相当美味しかったと思います。
最後はジオグリフとイクイノックスが通った直線の馬場は、馬一頭分ですがジオグリフが通った馬場の方がよさげに見えました。
負けた馬に言うのもおかしいのかもしれませんが才能の面では全馬の中で一番だったと思います。
今回の負けは完全に枠や展開のあやで、まだまだ底が知れません。
日本ダービーは当然大本命、イクイノックスが頭の馬券しか買わず、ドチャクソ外れるのだが初めて日本ダービーを現地の府中競馬場で観戦するという実績を解除した。
ゴール直前の歓声が空気の圧となって体を通り抜けたのを覚えている。
素人ながら馬体にも触れておきたい。
↓リンク先にダービーに出た馬のフォトパドックが並んでいるが、こんなに深い胸と太い首を持つイクイノックスはオンリーワンだ。

日本ダービー時、未完成とは言えこれぞサラブレッドの理想といえるバランスをしている。
深い胸から台形の上半身、そこから生える太い首はこの馬の心肺機能の高さを伺わせる。
セクレタリアトやテイエムオペラオーが通常のサラブレッドよりも大きな心臓を持っていたのは有名な話だが、イクイノックスもおそらく同様に驚異的な心肺機能と心臓が備わっていることだろう。
すらっと長い脚はクラシックディスタンスでエンジンの爆発力を余すことなく推進力に変える。
これは最初に話した東京での驚異的な後半ラップを可能にする。
後肢がまだ未成熟だった春はノンタイトルに終わったイクイノックスだが、血統的にも体型的にも成長力に期待させ、後肢が完成されたらとわくわくさせる馬体だった。
本格化を迎えた秋
秋のローテーションは菊花賞へ向かわず、天皇賞・秋となった。
正直、ステイヤーに近いと思っていたので子のローテは意外だった。
ほんの少し運と枠順に恵まれたなら、三冠馬になっていた馬だと思っていたし、菊花賞こそナリタブライアン並みのパフォーマンスを発揮するのではと個人的には思っていたのだ。
しかし、初の古馬対戦という一抹の不安は簡単に払拭されることとなった。
とにかくこのレースを見てほしい。
パンサラッサの素晴らしい大逃げと直線の迫力ある末脚。
対して2番手以下は1000mの通過がおそらく60~61秒のスローペース。
その後方馬群で10番手を追走していたイクイノックスは決して有利な展開とは言えないが、見事スローからのヨーイドンで、その末脚が一級品であることを証明した。
イクイノックスの天皇賞・秋の後半800mは推定44.6秒。去年勝利したエフフォーリアの後半800m推定44.9秒より0.3秒早い。
ルメールが瞬発力ではアーモンドアイと言っていたが、この時点でトップスピードに乗るまでの時間、いわゆる加速力が劣るのは確かだったのだろう。
ただ、イクイノックスの真骨頂は後半4Fというロングスパートを日本競馬史上、どの馬よりも速く走れる能力ではないだろうかと見ている。
この時点でシャフリヤールやジャックドールを抑えて2.6倍の離れた一番人気、競馬ファンは馬券が上手い。
この後、イクイノックスの単勝が2.6倍も付いたことがいかに幸運だったか思い知らされていくのだが。
そして秋2戦目の有馬記念
幸運にも現地観戦できた。
自分は有馬記念の予想にこう記している。
近二年はその年の天皇賞・秋からローテの馬が有馬記念を連勝している。
中山適性を懸念する声もあるが、手前変えもスムーズだし、操縦性も高いのは皐月賞でコーナーを加速して上がってくる脚を見れば不安視する必要はない。
今のパワーアップしたイクイノックスならば坂上で脚が止まることも無いと見る。
調教も順調そのもので、立ち写真も天皇賞・秋より良。
最終追切前の日曜日に販路を2本追っていて、ようやく体質の弱さが改善され、調教を強く使えるようになってきた成果が現れている。
あと1週間で古馬になるのに55キロという3歳馬に非常に恵まれた斤量も加点要素。
鞍上のルメールも有馬記念での信頼度は他の騎手とは別格。
過去15回騎乗して2-4-2-7で複勝率は50%超え。
トリッキーなコースゆえに鞍上の信頼感は非常に強い武器。
心の中ではイクイノックスの強さは10年に1頭レベルではないかと思っている。
有馬記念を勝ってこの馬が年度代表馬だ。
3コーナーで手綱を持ったままマクってくる姿で勝利を確信。
紐荒れの多いイクイノックスのレースの中でも、本命対抗で馬券を全部取って大勝したレースなので余計に思い出深い。
手綱を持ったままマクってくる姿は有馬記念で一級のパフォーマンスをした名馬に共通する。
シンボリクリスエス、ディープインパクト、オルフェーヴル、あの迫力は有馬記念という特殊なコースゆえの醍醐味でもあるだろう。
木村調教師のこの話が好き。
木村調教師は「毛づやも落ちて無く、馬も落ち着いていて、今はトラブルなくホッとしている。有馬は特別なレースで今でも信じられないし、全然、実感が沸いてないです。今だから言えるけど、金曜日の朝の調教で朝日を浴びる姿を見て、こんなすごいいい馬が、こんな素晴らしい状態で、こんな調教ができるんだと。芸術的なオーラを放って、美しかった。自分のキャリアで、もう二度と見られないかもしれないと思った」と、勝利の喜びをしみじみかみ締めた。

化物は年が明けたら史上最強となっていた。
年が明けた23年、国内に敵はなく、目指すは海外。
ドバイの地で、最終追切でようやく仕上がったという、決して100%ではない状態だったと思う。
今まで後方からの競馬だったイクイノックスが逃げるという意表を突く展開だったが、逃げというより自分のペースで走ったら、ほかの馬より早かったというだけのお話。
イクイノックスのベストレースの一つだろう。
のちにこのレースに出走していた2着以下の馬が海外のG1で好走に好走を重ねたことが、イクイノックスの評価をさらに跳ね上げた。
我儘と分かっているが、最後まで追ってほしかった。
突き放し続けるイクイノックスを見たかった。


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